犬を愛しすぎた孤独?ゴミ屋敷を生んだ悲劇
山田さん(仮名)は、近所でも評判の犬好きとして知られていました。しかし、夫に先立たれ、子どもたちが独立してからは、その愛情は少しずつ形を変えていきました。一匹、また一匹と、行き場のない犬を引き取るうちに、家の中はあっという間に十数匹の犬で溢れかえりました。彼女の寂しさを埋めてくれるのは、自分を無条件に慕ってくれる犬たちだけなのでした。最初は献身的に世話をしていましたが、増え続ける犬の数と自身の加齢により、次第に世話が行き届かなくなってしまったのです。掃除は追いつかず、排泄物は放置され、家はゴミと汚れに埋もれていきました。犬たちは栄養失調や皮膚病に苦しみましたが、山田さんは「私が面倒を見なければこの子たちは死んでしまう」という強迫観念に囚われ、誰にも助けを求めることができないという悪循環にはまってしまったのでした。彼女にとって、犬を手放すことは自らの存在価値を失うことと同じだったのです。これは、動物を虐待しようという悪意から始まったのではありません。むしろ、根底にあったのは歪んでしまった深い愛情と、社会からの孤立が生んだ深刻な孤独でした。やがて、事態を憂慮した民生委員の通報により行政が介入し、犬たちは保護され、山田さん自身も福祉的な支援を受けることになりました。これは、単なる動物虐待事件ではなく、一人の人間が社会の中で孤立し、救いを求めた結果として起きてしまった、悲しい物語なのです。